我に返った真由は、「すみません」とどうにか頷いて、硬直しかけた身体を扉の横に少しずらした。なんとも情けないと気分は沈んだが、三鬼が続けて「ベテランだって吐くやつはいる」と追って駆けてくる言葉を聞きながら、赤く染まった室内がわずかに覗く位置から、先程組まされた先輩刑事の後ろ姿を見守った。

 相変わらず宮橋は、美麗な顔で涼しげなまま現場をじっと観察していた。恐怖も嫌悪感も、何も感じていないようだった。戻ってきた藤堂が真由に「大丈夫ですか」と声をかける間に、宮橋と三鬼の短いやりとりは行われた。

「何も触れていないだろうな?」
「ああ。扉の前を通った客の通報を受けて、店員がすぐに一一〇番した。そのあと、俺がそこに入ったぐらいだな」

 三鬼は扉から入ってすぐの、わずかに血が踏まれた場所を指した。宮橋が「よろしい」と言って室内に足を進める。彼は血を踏むことも構わず、部屋の中央に立って室内を見回した。