見つめている真由の足は、そのおぞましさに、知らず次第に小さく震え出していた。人間が座っていたと思われるソファの中央の壁には、花を咲かせた血飛沫が描かれていて、テーブルの下にある切断された頭部の一部分を見て、それがどこの一部であるかが分かって、吐き気を堪えて口に手をやった。

 それでも、彼女は目をそらす事を忘れてしまっていた。本能はその光景を拒絶していても、おぞましさと恐怖は身体から自由を奪って、瞳すら他人の物のように自由にならないでいる。

 テレビの乗った台の下にある、半袖がついたままの腕。棚の上に転がる、靴を履いたままの足首の塊。食いちぎられたような太腿の部分、ソファの端にぽつんと立つ胴体――

 その時、目の前に大きな手が現われて、一瞬その光景が遮断された。

「あまり、見ない方がいい」

 こちらに手を伸ばした三鬼が、宮橋同様に入口から室内を見つめたまま、顰め面ながら神妙な横顔でそう言った。彼のぶっきらぼうな物言いには、「無理をするな」という言葉が隠れていて、気遣われているのだと分かった。