「先に調べさせておいた方がいいんじゃ……」
「うん。いちおう俺の方で、伝えてきます」

 先に行ってて、と続けた藤堂に頷き返し、真由はすっかり離れてしまった宮橋のあとを追った。引き返す藤堂の靴音が、だんだんと背中の向こうへ離れて行くのが聞こえていた。

 他にも色々と出てきそうだと思ってしまい、真由は本日二度目の身震いをした。
血が一人歩きするなんて、そんな想像をした自分に「怖がりすぎでしょ、私」と小さく叱って頬を軽く両手で叩いた。きっと、血の跡は始めからそこにあって、それに宮橋は気付いて見ていたのだろう。

 真由は自分にそう言い聞かせて、ぐっと顔を上げて前を見据えた。

          ◆◆◆

「入店していた客には、すでに聞き取りを済ませてあります。平日の正午という事もあって、被害者を除くと他には十組の客しかいなかったようです」

 部屋の前で警察官の話を聞いた真由は、平気な顔で立つ宮橋の隣で、残酷な事件現場を確認して絶句していた。少ない人数の客を入れるという、こじんまりとしたそのカラオケボックスには、辺り一面に血飛沫が広がっていたのだ。