宮橋は店内に入ると、一度足をとめて辺りを見回した。三鬼が顔を顰めつつ、「こっちだ」とぶっきらぼうに呟いて先を促す。彼はそれに対して文句も言わず、歩き出しながら、まるで初めて来る場所のような目で辺りを見回していた。

 壁にカラオケメニューの案内表が張られた廊下には、いくつものガラス扉が続いていた。セルフのドリンクバーを通り過ぎたところで、ふと宮橋が横に伸びる廊下の向こうを見やり、機嫌を損ねた子供のような顔をした。

「どうしました?」

 真由と並んで、後ろからついてきた藤堂がそう尋ねる。先頭を歩いていた三鬼が、二メートル先で怪訝そうな顔をして振り返った。

 宮橋は難しい顔をして、向こうの廊下先を見つめたまま顎に手をあてていた。じっと見つめるさまは、おぼろげな何かを見極めようとするかのようだった。

「おい、どうした」、そう三鬼がそれとなく尋ねる。

「いや……」、と宮橋は曖昧に言葉を切った。

 すると三鬼は、とくに深くは尋ねず「……こっちだ」と言葉を投げて再び歩き出した。宮橋は少しの間黙り込んでいたが、顔を上げて彼のあとに続く。