一台の黄色いスポーツカーが、赤いサイレンを撒き散らしながら猛スピードで町中を駆け抜けていたのは、午後二時の事だ。

 夏の青い空が広がる町中の広い通りで、それはカーレースでもするかのように車の間を走り抜けて行く。何事だと視線を送る人間もいれば、慌てて道を開ける車もあった。

 その騒ぎの中心にいた真由は、助手席で悲鳴を上げているものの、防音ガラスでそれは外まで伝わっていない。

「ぎゃぁぁああああああ! 宮橋さんッいますぐスピードを落としてください! 危ないですから、マジで!」
「はははははは! 退くがいい、一般庶民ども! この瞬間が、警察をやっていて一番の醍醐味だな!」

 噛みあわない一方通行な会話が車内でされている事も知らず、一般車は避ける間もなく通り過ぎていくスポーツカーを見送った。いちおう車上には赤い警告ランプが回っており、けたたましいサイレンも鳴り響いているので、人々はそれを確認すると「何か事件でもあったのだろうか」と呆けつつ目で追った。