「もっと被害者は出るよ。僕の予想が正しければ、短い期間で次々にね。僕が気になっている事は、もっぱらこの事件を三鬼が担当しているという事かな。あいつ、僕にいちいち絡んでくるんだもんなぁ」
「ちょっと待て、もっと続くとはどういう事だ」

 問われた宮橋が、ふっと真面目な表情で小楠を見つめ返して、こう言った。

「僕の予想が正しければ、犯人はあらかじめ『殺す人間』を決めて動いている。だから、次に誰を殺そうかという迷いも、選ぶ時間もかからないんだ。ああ、これも僕の『ただの推測』だけれどね」

 宮橋は、とって付けたようにそう言って、言葉を続けた。

「小楠警部、いいかい。僕が現時点で言える最悪な推測が正しいとするのなら、殺人が起こるたびに行動は大胆になるうえ、次の殺人までの時間が短くなるよ」
「おい、それは一体どいう――」

 再び小楠が尋ねようとした時、室内にけたたましい携帯電話の着信音が響き渡った。真由が音に飛び上がる隣で、彼が眉間に皺を寄せてそれを取り出す。

 電話を取って数秒、小楠の表情が強張った。真由が宮橋を見やると、彼は意味深に見返したあと肩をすくめて見せる。

「三人目の被害者だと!?」

 途端に小楠が立ち上がり、電話の相手にそう怒鳴り返した。

 真由はようやく意味を理解し、絶句した。ファイルを机に置いた宮橋が、その拍子に倒れた飾りのチェス駒を直しながら「ほらね」と言ってのけた。

「こりゃあ、早急に動かないといけないな」

 そう続けて宮橋が再び広げたファイルには、被害者と関係のある人間の名前、そして学校のクラスメイトなどが記載されていた。わずかに目を細めた彼の白い手が、印字された紙の上のある名前をなぞるように、ゆっくりと滑った。