宮橋が微笑んだ。絵としてみれば、肖像画の貴公子にも見える。しかし、真由は彼の笑みにどこか、正体不明のあやふやで掴みどころのない奇妙な自信を覚えた。

 小楠は「ああ」と低く答え、じろりと宮橋を睨みつけた。こうして椅子に座っているだけの彼が、本当はもう、実際に現場へ踏み入った自分たち以上の事が分かっているとは想像出来ていた。

 二人は、十年前のとある事件で『この捜査一課に残っている数少ない理解者』だ。しかし違っていたのは、二人が持つ目的と意見が、お互いに別の方へと向いている事であった。

「――今朝、身体を切断された際に二人の被害者が、生きていたという結果が出た。刺し傷がいくつかあったので、我々はそれが死因かとも思ったのだが、原因はバラバラにされたあとの大量出血死だった。考えられるか? 生きたままの人間をどうやって切断できる?」
「切断面はどうだった?」

 宮橋は、小楠の忌々しげな思いを、さらりと流してそう尋ねる。