触れられた手が熱くて、前触れもなく視界をいっぱいにした美しい顔は威力抜群で、乙女心とは縁遠い真由でも、知らず体温が上がるのを感じた。彼は子供みたいに上機嫌そうな笑みを浮かべていて、明るい鳶色の瞳が輝いているようにも見えた。

「橋端真由、君は僕の相棒だ」
「へ?」
「そうと決まれば、まずは机を探しに行こうか」
「え。ちょっと待って、机……?」

 腕を取られて立ち上がるそばで、小楠が「そもそも、またうちの備品を使わないつもりか」と頭の中で状況を整理しつつ、茫然とした調子で呟く。頼むから、勝手に買ってきて持ちこむなよ、という個人的な意見も口にしていた。

 しかし、宮橋は聞いていない様子で、ふと気付いたように顎に手をあて、

「ああ、そうか。忘れていたな――おはよう、真由君」

 当然のように挨拶をされて、真由は呆気に取られたまま「えぇと、宮橋さん、おはようございます?」と答えていた。すると、彼が「ははっ」と、また良く分からな上機嫌さで笑った。

「やっぱり君は、僕を真っ直ぐ見るんだな」
「はい……?」
「そのサンドイッチ、僕も半分もらっていいか」
「いや別に構わないですけど、さっき朝ごはんたべてきたんじゃ? ――って、ちょっと待って。なんで腕をぐいぐい引っ張るんですか。というか、この流れってもしや」
「僕の車で行った方が早いだろう」

 途端に真由が両足を踏ん張って、「んな荒い運転されたら、サンドイッチ食べられないですよッ」と騒ぎだした。女性とも思わない様子で、宮橋が持ち前の馬鹿力で彼女をずるずると引っ張っていき、その声が離れて行くのを、三鬼たちが口を開けたまま見送った。

 遅れて小楠が、ひとまずは問題解決らしいと察して、小さく息をついた。


                     了