「…………」
「…………」

 結局、帰宅する事なく迎えた翌日の朝。

 まだ自分の机もない真由は、椅子に腰かけた三鬼と目が合ったところで、唖然とした表情をされてじっと見つめ合っていた。

 先程まで、そこには勝手に先輩の椅子を拝借していた藤堂がいた。目覚めに効く珈琲を買ってきます、と彼が席を立っていったのは数分前の事である。そうしたら、三鬼がジャケットを引っ掛けて出勤してきたのだ。

「……なんか、ひでぇ顔してんな」
「もともとブサイクで可愛くないし、気にしてません」

 泣き腫らした目に濡れたタオルは押し当てていたし、明朝に比べればマシになっている。さっき、もう一回顔だって洗ってきたのだ。もう何十人という同僚に見られてしまっていたので、真由は開き直って顰め面で構えていた。

 その時、戻ってきた藤堂が「先輩」と呼んだ。

「女の子に向かって『ひどい顔』という言い方は、よくないですよ」
「うるせーな、どうせ俺はモテない組だよ」

 三鬼は頬杖をついて、ブラックの缶珈琲を真由に手渡す藤堂を見やった。泣いた跡はほとんど落ち着いていて、泣いた事で返ってすっきりとしている。