宮橋が書類上で語る言葉は、「そう言われればそういう気がしてきた」というものだ。どこかあやふやで、それでも結果ばかりがはっきりと残る。これまでL事件特別捜査係で解決した事件は多々あり、現在刑に服している者もある。

 しかし捕まった人間は、どれもこちらとの話が噛み合わない。

 犯人たちは、誰もが独特の世界観を持っており、中には現在でもなお、自分の行為が正しいと主張する者までいた。

 家族、親戚を殺し続けた凶悪殺人犯もそうだった。『死してもなお共にある、これでもう輪廻から奪い取られないぞ』とよく分からない事を言って歓喜し、いつもニコニコと笑っていた。首だけを持ち帰って中身を丹念に食べつくしたその彼は、死刑が確定している。

「事件は犯人逮捕で終わって、語られる事もないまま死んで、何もかも謎のままか……」

 頭に包帯を巻いた田中が、廊下でポツリと言った。

 相棒の竹内の、大きな腕に支えられながら涙する真由を見やったあと、自分が引き受けた藤堂の頭を乱暴に撫でる。それから「泣くなよ藤堂。僕の涙腺だってゆるいんだからな」と、田中は鼻をすすった。

「お前たちを見ていると、余計に泣けてしまうよ。だから、頼むからそんなに素直に泣いてくれるなよ」

 その声を聞きながら、小楠は現場を小森たちに任せて廊下へ出た。

 また泣いてるのか、藤堂。新人時代から変わらないな、という普段の冗談一つも言えなかった。一同を見回して「行くぞ」と踵を返す。

 後ろから続いた足音と共に、どこからか「本当に彼が犯人だったんでしょうか」と言葉が上がった。小楠は大きな背中に部下を引き連れたまま、正面を見据えた瞳を刹那に歪めた。

「ああ。この件に関して、もう被害者は出ない。――これで、本当におしまいだ」

 長くも思える廊下を、一人の女と男たちの靴音が通り過ぎていった。