「彼は、どこへ行ったんですか?」
 思わずよく知っている小楠に尋ねると、彼はまたしても小さく首を横に振った。
「あの後、そのまま署を出て行ったらしい。警備の者以外、誰も彼とは会っていない。三鬼がすぐ連絡を入れてみたが、勤務時間外だと言われて切られたそうだ。それからは、電話も留守電になっている」

 小楠はそこで、顔をそむけて肩を震わせる藤堂を見やった。共に食事をしたのも数時間前だ、それを知って悲しげに顔を歪めた。

「事件は、犯人が死亡して終わりか」

 彼は、つい静かにそう口にしていた。

 小楠の言葉を聞いた真由は、堪え切れなくなって泣き出した。辺りに響くか細い泣き声に、とうとう藤堂の涙腺も崩壊して、押し殺した泣き声をあとに続かせた。俯いて落ちた彼の髪と手の隙間から、涙が溢れてこぼれ落ちていく。

 小森が二人を気遣いつつ、廊下へと連れ出した。同僚たちは、みっともないほどよく泣く二年目の刑事と、新米の女刑事を迎え入れて「泣くなよ」と不器用に励ました。