携帯電話がけたたましく鳴ったのは、眠りに落ちてしばらく経った午前三時過ぎのことだった。

 真由は、小楠から緊急の知らせを受けてすぐ、化粧と身支度を大雑把に済ませて家を飛び出した。もつれそうになる足に苛立ち、少し高さのある革靴を脱いで、ストッキングのまま階段を駆け降りる。車に乗り込むと、静まり返った住宅街を飛ばし、ほとんど通行のない大通りを急いだ。

 与魄智久の死が伝えられた捜査一課は、慌ただしくも続々と署へ駆け付けているらしい。真由は、車が雑に並んで停車された中、同じく駐車ラインも見ずに自分の車を停めて、真っ先に智久がいる元へ走って向かった。

 白い廊下に、自分の靴音が反響する音を聞いた。新しく改装されたA室の廊下奥に、捜査一課の面々が集まっているのが見えた。

 真由は彼らの前に割り込み、乱れた呼吸を整えるのも忘れて顔を上げたところで――絶望を覚えて息を呑んだ。

 やや広さのある部屋の中には、鑑識を含めた死亡確認を進める班と、皺になったシャツを乱暴に付けた三鬼、数時間前に別れたばかりの小楠と藤堂の姿があった。

 沈黙して全員が見守る中、三鬼が舌打ちをして踵を返し、こちらを見ることもなく大股で出ていった。ふと振り返った小楠が、目が合うなり苦しそうな表情で小さく首を横に振って「話した通りだ」と告げてきた。

 真由は、行き場のない気持ちの答えを求めるように、小楠の手前にいる藤堂へ目を向けた。

「藤堂さん……」

 状況を尋ねようとしたのに、声が掠れて、頼りなく震えて続かなかった。こちらを見た彼が、答える代わりに今にも泣き出しそうな顔を、簡易ベッドへと向けた。