真由は、犯人が自分一人であると口にしていた智久を思い返して、少し珈琲を飲んだ。隣で缶コーヒーを一気に飲みほした藤堂が、立ち上がって自動販売機横にあったゴミ箱に入れてふと、思い出したように「そういえば」と言った。

「銃を撃った時の宮橋さん、すごかったですね。僕はよく見えなかったんですけど、放り投げた何かに、いくつかの銃弾を命中させていました」
「確か、携帯電話だったんじゃないでしょうか――ん? あれって保護した少年の私物ですけど、大丈夫なんですかね? というか、私てっきり飛んでくる部品でも撃っていたのかと思っていました」

 どうして発砲したんだろう、というのも疑問の一つだったと思い出した。

 そもそも車が突っ込んできて、偶然にも事故が起こってしまった方も大変驚かされた。どうして彼があの場に、一旦マサル少年を連れて行ったのかも、今更ながら思い返すと謎であると気付く。

 あれ? そういえば宮橋さん、確か無人のパトカーを用意しておけ、って行動開始する前に指示を出していたような――

「すごい早撃ちでした。俺、あの人がピストル引き抜くのを見るのは初めてだったんですけど、あんなに上手いとは思わなかったなぁ」

 掘り返してみると、説明されていない部分の謎が連なって出てきたけれど、ベンチに座り直す藤堂の声が聞こえて、真由の思考はそこで途切れてしまっていた。膝の上に置いたままの、何も連絡がこない携帯電話が気になったのだ。

「彼は、うちで一番の使い手だからな」

 その時、腹に響くテノールの声が上がった。廊下の角から曲がってやってきたのは小楠で、藤堂が座り直したベンチから反射的に身を起こし、「お疲れ様です」と立ち上がりざまに生真面目に挨拶した。