名前や年齢、顔写真などの詳しい情報は一切あかされず、報道時間もかなり短かった。ニュース番組は、殺人現場の詳しい様子を報道することもなく、特集が組まれて世間を騒ぎ立てる様子もなかった。

 まるで惨殺など起きなかったかのように、サラリと述べられるだけに終わった。そして午後九時になると、すみやかにドラマ番組へと切り替わっていった。

 小楠率いる捜査一課には、別件の捜査に戻ったメンバーもあり、部内のほとんどの席が空いて物寂しさが広がっていた。捜査本部室から戻ってきたホワイトボードの前で、書類作業に残った数人の捜査員たちが、電話番をしながら現在も作業を続けている。

 そんな中、真由は先に業務を終えて、二階フロアの一室にある自動販売機のあるベンチで缶コーヒーを飲んでいた。

 スカートから覗く、ぴたりとつけられた膝の上には、傷の入った桃色の携帯電話が置かれている。その脇には、ベンチに沿った壁に寄り掛けるようにして、荷物の入った手持ちタイプの小振りな鞄があった。

 人が歩いてくる音を聞いて、ふっとそちらに顔を向けた。ようやく戻ってきた藤堂の姿を見て、つい小さく苦笑をこぼした。

「お疲れ様です」

 そう声を掛けると、彼からも「お疲れ様」と疲労が滲むような返答があった。仕事を終えたのは数十分前だったが、彼女は小楠と共に智久を連れていった藤堂を、こうして待っていたのである。