「ははは、そんなこともあったな」

 宮橋が力のない、調子外れの乾いた笑い声を上げた。三鬼は舌打ちすると、そのまま踵を返して不格好に歩き出しながら、背中の向こうの彼にこう続けた。

「救急車を呼ぶから、そこで待ってろ」


 続けてブツブツと愚痴る三鬼の背中を見つめていた宮橋の顔から、作っていた笑顔がふっと消える。

「…………あの子が、明日の朝を迎える事はない」

 多分、たくさん泣くんだろうなぁ、と、宮橋は組まされたばかりの相棒である真由を思い返し、すっかり暗くなった空を見上げた。

「僕らしくないな。断れるタイミングは、何度もあったのに」

 明るくも見える切れ長の瞳に、空を映し出しながら「うーん」と頭をかき、それから――そちらについては、悩む事をやめた。今すぐに判断をくださなくともいいだろうと、言い訳のように感じる思案に首を傾げた。

              ◆◆◆

 連続バラバラ殺人事件の容疑者が捕まった、という報道が流れたのは、午後八時のことだった。真犯人とほぼ断定されたうえで『事件は解決しました』とされた内容には、実際に捜査に関わった人間からすると、早急な判断のような違和感を覚えた。