「あなたに会えて、嬉しかったです。それから、ごめんなさい」
「僕も、君に会えて良かった。――本当は、もっと違う形で会いたかったよ」

 その手を握り返した宮橋が、ぎこちなく口角を引き上げる。「さよなら」と智久が言い、彼が諦めたようにふっと表情から力を抜いて「さようなら」と口許に静かな笑みを浮かべ、二人は同時に手を離した。

 智久が会釈してから車に乗り込み、後部座席の扉がパタリとしまってすぐ、小楠が窓を閉めながら「藤堂」と呼んで指示を送った。車は滑るように発進すると、事故が起こった現場とは反対方面へと向かった。

 車が、他の通交車に紛れて見えなくなったところで、三鬼は怪訝な顔で宮橋を振り返った。すかさず不機嫌さをかもし出し、言い放つ。

「おい、宮橋。車の件よりも、まずお前は病院に行って、その足を診てもらえ」
「大袈裟だな、少し打っただけさ。そもそも僕がいなかったら、現場は大忙しで大変じゃないか」
「てめぇに顎でこき使われるよりましだよ! くそ忙しいのに紅茶だの茶菓子だの、背中がかゆいだの言われたあの忌まわしい日を、俺は忘れちゃいねぇぞ!」