「そもそも、こんな遅い車に乗っていられるか」
「それが本音ですか。普段から、どんだけ荒い運転してんですか」
「僕ほど安全運転な男はいないぞ。それから、僕は署には戻らないから、あとは小楠警部に従え」

 見下ろされて堂々と言い放された真由は、呆気に取られた表情を浮かべた。「あれは安全運転じゃないし、というか机業務を全丸投げって……」と呟くそばで、藤堂が「相変わらず自由すぎる人だ……」と相槌を打っていた。

 その時、それまで様子を黙って見つめていた三鬼が、小さく舌打ちした。現場のおおまかな収拾は小楠がやってくれているだろうが、やらなければならない事は多々ある。こういう状況の時に毎回思うのは、どうして俺はこの仕事を選んじまったんだ、ということだ。

「どうせ、俺が残って後始末もするんですよね」
「……よろしく頼んだぞ」

 小楠が、仕方がないが頼まれてくれ、という表情で目頭を押さえてそう言った。

 真由が車内から、後部座席の扉を開ける中、智久が宮橋に手を差し伸ばした。どこか申し訳なさそうな顔で、十六歳の少年らしい少し泣きそうな笑顔を浮かべる。