それを理解した途端、つい一瞬ほど状況を忘れた。尊敬している上司の話を聞きながら、思う。

「…………小楠警部と同じ車に乗ってるとか、羨まし過ぎるだろ」

 そっと電話口を離した三鬼は、小さく震えながら片手で顔を押さえて、そんな個人的な思いを呟いてしまっていた。


 数分も経たないうちに、一台の普通乗用車が路肩へと滑りこんできた。

 助手席側の窓ガラスが開き、運転席から藤堂、助手席から小楠、後部座席から真由が顔を覗かせる。本人を目にした途端、それぞれの表情を浮かべたその三人に、智久は控えめに微笑んで「こんばんは」と、丁寧な挨拶をした。

 宮橋が、助手席から顔を出す小楠に歩み寄った。手短に智久を紹介し、続ける。

「安全運転で、署まで連れて行ってあげてくれ。ああ、事情聴取は明日にしたほうがいいだろうな。その方が明瞭な説明が出来る――と、本人もそう言っている」

 まるで前もって用意していた台詞でも読み上げるかのように、彼が普段のような陽気さもなく告げると、小楠が鋭い眼差しで見つめたまま、けれど「承知した」と重々しく答えた。