三鬼は遅れて「そうか」と形ばかりの相槌を打って、空を見上げた。薄く伸びた雲に重なった茜色が、そこには静かに広がっていた。どこかへ帰っていくのか、影しか確認できない鳥の群れが、上空を横断しているのが見えた。

 数分ほどそうして歩いていた三鬼は、宮橋の声が聞こえたような気がして、視線を戻した。

 宮橋が少し進んだ先で立ち止まり、二階建ての書店のガラス窓を眺めている。美麗な横顔から覗くその形のいい唇が、僅かに動くのが見えた。

「なんか言ったか?」

 尋ねると、彼がこちらを静かに振り返った。僅かに首を振って否定を示し、進行方向へと向き直りながら、独り言のように「探しているんだ」と呟かれた。

 三鬼は、それが記憶の中のある映像と重なり、思わず眉根を寄せていた。反射的に宮橋の肩を掴み、引き留める。

「また、妙なことを考えてるんじゃねぇだろうな?」
「唐突になんだ、意味が分からないぞ」

 宮橋は強い一瞥をくれたが、その手を払いのける仕草は慎重だった。三鬼の捲くられた白いシャツに、こびりついた血を見て怪我を考慮したためだ。