「そうか。小楠警部には、俺が宮橋についていると伝えろ。容疑者を確保したら、すぐに連絡する」

 後輩からの質問が続く前に、三鬼は電話を切った。胸ポケットに入れてある煙草に意識が行きそうになるのを堪え、乱暴に両手をズボンのポケットに押し込む。

 ゆっくりと歩き続ける宮橋は、人を避ける素振りも見せず、進み続けていた。三鬼は時々、対向から擦れ違う通行人を避けて、自分から意識的に衝突を回避する。

「おい。どこに向かっている?」

 三鬼は、二人の散策が始まってから、ここにきて初めて口を開いた。

 返事を待ちながら、宮橋のすらりと伸びた、日本人離れした背中を眺める。同じ年だとは思えないほど若いその後ろ姿は、まだ新人だった日を思い起こさせた。L事件特別捜査係を立ち上げることになった『神隠し事件』の時も、こうして歩いたのだ。

 しばらくして、宮橋が力なくこう答えてきた。

「与魄少年のいる場所さ」

 ふと、三鬼の視界に、あの日の光景が重なった。全身を雨に濡らしながら、右腕を包帯で巻いた記憶の中の彼が『彼のいる場所さ』と呟いていた光景が、瞼の裏に蘇る。