よくは分からないけれど、暴走した車もパトカーも無人で、大きな怪我人は発生していない。彼は与魄智久を迎えに行くという。ならば、今、自分が取る行動は一つだ。

 しっかりついて行きますからね、と改めて見つめ返したら、どうしてか彼が少しだけ目を細めた。

「――君は、それでも僕を真っ直ぐ見るんだな」
「へ?」

 それは一体、どういう意味……?

 尋ねようとした真由は、続いて彼が藤堂へと目を向けてしまったので、タイミングを逃してしまった。足を止めている彼に付き合うように、近くに立っている三鬼が、仏頂面をそらしてガリガリと頭をかいている。

「藤堂、マサル少年を連れて行って保護させろ。ついでに、事故処理班をこっちに回してくれ。外に音は聞こえていないから、煙を見るまでは誰も気づかないぞ。『無音空間』では、何もかも外界から遮断される」
「あの爆音で気付かないなんて、あるんですかね……」

 ああでも、何度かそういう事もあったような、なかったような、と藤堂が悩ましげに首を傾げる。それから彼は、重さなど感じていないように腕に抱えたマサルを見下ろして、「了解しました」と、ひとまずはそう答えた。