「鍵をかけた方が良かったな」
「鍵を掛けたって、また壊して突破してくるに決まっている」

 宮橋はそう言って鼻で笑い、小楠に視線を戻した。背もたれから身体を起こし、長い足を自然な動きで組み変える。

「さて、小楠警部、そろそろ本題に移ろう。僕にやって欲しい事件が起きたんだろう?」

 一瞬、小楠の身体が強張った。彼は唇を一度引き結ぶと、「そうだ」と低く答えた。

 宮橋が喉の奥で楽しげに笑った。椅子の背に持たれ、腹の下あたりでやんわりと手を組む。

「なら、話を聞こうか」

 L事件特別捜査係が担当する仕事分野を知るためにも、真由は今のうちにしっかりと話を聞いておこうと思った。これからしばらくの間は、宮橋と一緒に仕事をすることになるからだ。

 彼女は、婦人警察のままでいなさい、と周りに言われていた事を思い出した。実は初めて事故現場や殺人現場を見た時、ひどく狼狽して食事すら喉を通らなかったのだ。

 それでも刑事になろうと思ったのは、父が背負っていた正義感の強さに惹かれていたからだ。頑張ろう、と真由は勇気を奮い立たせるいつもの言葉を、胸の中で力強く繰り返した。