その暴走車は、前輪をこちらに向けた状態で、コンマ数秒遅れで後輪を滑らせて完全にこちらへと進行方向を定めた。ブレーキレバーを引いたままエンジンを吹かせた動きだったが、その車の運転席には――誰も座っていなかった。

「嘘だろッ」

　視認した三鬼の驚愕よりも早く、車はアクセルをいっぱいに踏み込んだまま、ブレーキだけを外していた。ゴムとアスファルトを焼きながら、煙を吹いて勢い良く走り出す。

　暴走車は減速することなく、一直線に進みながら更に加速をつけた。

　宮橋とマサルが自分達の前にいるのだと遅れて気付き、真由は甲高い悲鳴を上げていた。「ちッ」と舌打ちした三鬼が、駆け出そうとした時、宮橋がこちらを見ないまま「止まれ馬鹿三鬼！」と制止の声を上げ、両足を踏みしめて大きく息を吸いこんだ。

「輪廻と運命の字も持ち合わせないお前に、僕の命が取られることは許されない！」

　唐突に、宮橋が暴走車に向かって毅然とした態度で、まるでどこかの『芝居台詞』でもなぞるかのように怒号した。続けて、明瞭な声で叫ぶ。