四十の貫禄さえ窺える三鬼が、「俺は老けてないぞ!」と、実のところちょっと可愛らしいと思っていた新入りに先手を打つように言った。遺伝でもなければ歳を偽っているわけでもなく、苦労が多かっただけなのである。

 すると、宮橋が美麗な顔にニヤリと笑みを浮かべた。芝居かかった様子で「やれやれ」と肩をすくめて話し出す。

「橋端真由とやら、どうやら彼は、僕よりも早く歳をとってしまったらしい。不思議だ、全くもって不思議だよ。僕と同じ年月を過ごしながら、一人だけ先へ先へと進んでいるんだから――」
「くそッ、それ以上言わせてたまるか!」

 今度こそぶちのめしてやる、と三鬼が飛びかかろうとした時、突然その後ろから「先輩、ストップ!」と後輩の藤堂が現われ、彼の両腕をしっかりと捕えた。先輩相棒の性格を熟知している彼は、慣れたように「仕事に行きましょうかっ」と早口で言って、三鬼をひきずって行った。

 遠のいていく三鬼の反論を聞きながら、小楠が静かに扉を閉めた。