「事故ですって、怖いわねぇ」
「近くで殺人事件もあったみたいだし、本当に物騒よねぇ」

 途中、買い物袋を持った中年の女性たちと擦れ違った。

 とくに視線も向けない宮橋の後ろで、藤堂が女性たちを目で追って「なんだか、呑気な調子で会話されてましたねぇ」と呟く。すると、三鬼が憮然としてこう言った。

「事故があったから警察関係者が多い、としか思ってねぇんだろ。まさに、その殺人事件の捜査真っ最中なんだけどな」
「まぁそうでしょうね。ところで三鬼さん、宮橋さんは一体何をしようとしているんですかね? なんか背中から、すごい緊迫した空気が溢れているような気がするんですけど……」
「ありゃ、穏便にガキを迎えに行くって雰囲気じゃねぇな」

 真由は、付き合いが長いという彼に、どういう意味ですか、と尋ねようとした。しかし、それよりも先に、宮橋がシャッターの降りた宝石店の前で立ち止まって、こちらを振り返ってこう言った。

「これから起こる数分間は、なかったことになる。報告の義務はない。君達は、『ここで立ち止まったりしなかった、今も僕と一緒に容疑者を迎えに行っている最中』なんだ」