宮橋は、藤堂の後ろ姿をちらりと見送ると、唐突に、緊張したこの場には不似合いな、実に胡散臭い美麗な笑みを浮かべて向き直った。真由が「へ」と思考を止めて、三鬼が「うげっ」と警戒したように一歩後退する。

「君たちは、『飛んでくる障害物から』マサル君とやらを守って欲しい。いいかい、何が起こっても、僕の指示には絶対に従え。そして、目的を忘れるな、君達が守るのはマサル君だからな」

 マサル、という単語を強調して、宮橋は年を押すように言った。三鬼が口をへの字に曲げ、疑わしげに彼を注視する。

「……聞き捨てならねぇ言葉が色々と出てきたが、どうせ質問しても答えねぇんだろ? ――くそッ、分かったよ! お前の指示に従おう」
「よろしく頼むよ」

 宮橋は答えながら、また腕時計を見やった。こちらに背を向けて、トラックから離れるように少し歩く。

 彼の背中を見つめていた真由は、近くにいた三鬼に「時間を気にしてますね」と声を掛けてみた。三鬼は厳しい顔つきで、彼の方を睨みつけたまま「ああ」と呟き返す。


 二人の視線は感じていた。宮橋は時計の秒針が、正確に時間を刻み続ける音を聞き、時刻が更に、もう一分先へ進むのを確認する。

「六時七分。――そろそろ時間がないな」

 必要なのは、昼と夜の狭間だった。

 脳裏に『マサル』という名前を持った少年を『視』て、そこに藤堂が合流して連れてくる気配を覚え、宮橋は一度、見え過ぎる自分の目を静かに閉じた。