電話向こうで申し訳なく微笑む表情には、後悔と罪悪感はほんの僅かにしか残されていないのだと『視えた』宮橋は、静かな声色で「可能だ」と簡潔に答えた。

「そのために、強制的に『物語』を終わらせて契約を完了させる。僕が『人形物語』の最終章をこじ開けるから、君は彼に与えてしまった魄を一瞬だけ引き抜くんだ。こちらからの殴り技になるから、君にも少し衝撃が来るだろうが……そうすれば、勝手に立ち位置が変わる事もなくなるだろう」

 すると電話の向こうで、智久が『ああ、それでこんな所に出たりしているのですか』とようやく腑に落ちたように言った。

『気付くと元の道に戻っていたり、大通りに出るはずだったのに路地に出たり……さっきまでは書店の前を歩いていたのですが、今はサンサンビルの裏手です』
「次のターケッドの接触のタイミングを計っている『彼』に、知らないうちに連れ回されているのさ」
『場所を飛び越える一瞬、視界がぶれる気がします』
「慣れていないからだよ。でも上出来だ、普通の人間であれば意識が朦朧となるか、感情の一部だけでなく記憶を持って行かれる」

 つい苦笑を浮かべてしまった宮橋は、ふっと笑う吐息をこぼした自分に気付いて、途端に惨めさを覚えて微笑を歪めた。「――同じ感覚を知っていて、こんな風に話せる相手がいれば、苦しくはなかったのにな」と呟いてしまう。

 異界の目は、どちらの世界もよく視え過ぎた。聴覚はこの世にない音を拾い、魂は知りもしない異界を懐かしんで揺れ、けれど人として生まれた身体は、家族や人間のいる世界の温もりを欲して離れられない。