この世の常識や、感情を挟む隙さえない。『物語』は、彼らの存在と行動の理由を忠実に示し、人は魅入られたと知らずに心を奪われて、本来生きるべき世界を飛び出して異界に呑み込まれて消え去る。それを、正しい選択だと疑いもせずに。

 宮橋は沈黙を聞きながら顔を上げ、目の前の壁をしばらく見据えた。

 思い返せば、新人時代にあった、合宿中だった高校生十二人が消えるという『神隠し事件』が一番目のL事件となった。八人の生徒が戻り、当時時分を担当してくれた先輩の相棒刑事が、全員の目の前で片腕を残して消失した。

 当時の上司や小楠、上に喧嘩を売りまくった三鬼の行動の結果で、L事件特別捜査係という名称を聞かされた時は、探偵事務所でも開くから放っておいてくれと思った。

 それでも離れられなかったのは、呪いか宿命のように、たった一人で暮らし始めたこの土地で怪奇で奇妙な事件・事象が起こり始めて、――そして何より、初めて自分を受け入れてくれた理解者を、そのせいで失ってしまったからだった。