真由も気付いて目を向けた。こちら見ている宮橋を見つめ返したものの、急かすように携帯電話からは着信音が鳴り続けていて、自分がもう長らく小楠警部の着信を無視している状況であると遅れて察した。

「――取らない方がいい」

 宮橋が、思案源にふっと呟いた。時間を気にしているのだろうと勝手に思った真由は、ここで相棒としてしっかり役目を果たそうと考えて、にっこりと笑い返した。

「大丈夫ですよ、さくっと用件だけ聞きますので時間は取りません」

 そう答えて、携帯電話を耳にあてて「小楠警部、こちら橋端です」と言った。そばから話を聞くようにして、藤堂が受話器側に耳を寄せるように背を屈める。

 電波が悪いのか、ややノイズ混じりだった。

「小楠警部? 聞こえますか?」

 その直後、宮橋が顔色を変えて駆け出していた。

「真由! 通話を切れ! 今すぐにだ!」

 滅多に大声を出さない彼の怒号が、緊迫感を伴って辺りに響き渡った。初めて下の名前だけで呼ばれた事もあり、真由は両方の驚きで「何事!?」と飛び上がって反射的に彼の方を振り返っていた。