「そんな事していませんよ。女仲間のアドバイスで、色気のない着信音は設定しないように気を付けてますもん」

 その声を拾いながらやってきた三鬼が、開かれている携帯電話の着信画面に目を留めて、ようやく疑問が解決してと言わんばかりに「小楠警部か」と吐息混じりに言った。

 プライベートで知り合いとか羨まし過ぎるだろ、と口の中に個人的な感想をこぼしつつ、三鬼は背を起こしてしばし考える。

「そういえば、ここに来るって言ってたからな」
「そうなんですか? じゃあ、その件で橋端さんに連絡入れたんですかね?」
「あの人はプライベートと仕事はきっちり分けてるし、普通なら俺か、宮橋のところにかかってきそうだけどな」

 そう続けて踵を返した三鬼は、戻ろうとした場所にいる宮橋の姿を目に留めた途端、訝しげに顔を顰めた。真由と藤堂を見つめている彼は、顎に手を当てて僅かに頭を傾け、彼にしては珍しく『あからさまに真剣に考え事をしている顔』だった。