同僚を怒鳴りつける三鬼を、マサルは恐怖に見開いた目で見つめていた。普段は自身が暴力を振るう側であるのに、すっかり委縮した様子で震える手を伸ばし、シャツの内側に突っ込んで漁り始めた。彼がシルバーの携帯電話を取り出したのを見て、宮橋が三鬼の手をあっさり外し「与魄少年の番号を出すんだ」と指示した。

 その時、近くから黒電話のような着信音が小さく上がった。

 怪訝そうに振り返った三鬼の視線の先で、真由は自分のジャケットのポケットの中で震える携帯電話に気付いた。取り出してみると、その音は桃色の携帯電話から鳴っている事が確認出来た。

 ボリュームを半分ほど絞られた、遠慮がちなベル音だ。昔ながらの黒電話の音というのも古風で、藤堂が「女の人にしては、少し変わった着信音ですね」と持ち主を気遣うように言った。

 着信の点滅ランプを見下ろしていた真由は、色気もなく思いっきり眉根を寄せた。

「私の着信音、こんなのじゃないですよ」
「へ?」