中学校を卒業すれば終わると思っていた関係が、高校まで続いた。進学校という環境の中で、異質な彼らを誰もが放っておいた。利口そうに見えた他の学生たちの目が、次第に変わっていったのを少年は覚えている。

 攻撃性の見えない同じ年頃の子たちが浮かべた表情は、はじめに同情だった。次には、自分もターゲットにされないかという恐れを覚え、目をそらすようになった。

 そんな彼らの無関心に、好奇心が芽を出すまで、そんなに時間はかからなかった。優越心という残酷さは、被害者の少年に手を差し伸べることを止めて、加害者の娯楽に便乗してしまったのだ。

 どうでもいい。少年はそう思う。今日も、きちんと家に帰らなければならないと分かって、試しに膝に置いた手をぎゅっと握りしめてみた。それだけで全身がギシギシと痛むのを感じた。

 歩くには、もうしばらくかかるだろう。ひときわ強く蹴られた膝は打撲だけで、手の感触では骨に異常もなさそうだと、少年は冷静に自身の身体の状態を分析する。

 イジメ程度の暴力で、死にはしない。彼は身に染みて分かっていた。中学の三年間だと思っていたものが、あと三年に伸びただけだろう。

 けれど、高校へ進学してから四ヵ月。
 
 少年の中で、何かが歪み始めていた。

 中学生まで感じていた痛みも悲しみも、もしかしたらという希望すら、少年の中からはなくなってしまっていた。こうして殴られた後、何を考えているかと言えば――

 彼は、ゆっくりと繰り返されている自身の呼吸に、汗が噴き出すような蒸し暑さを感じている。ただそれだけだ。

 不意に、彼は心の奥底で、一点の黒いもやがポツリと発生する違和感を覚えた。

 その正体は分からなかったが、それは高等学校へ進学してから時折、彼の胸の奥に現れるものだった。一点の染みのようでもあるのに、同時に、ひどく重々しいモノだ。