三鬼は、舌打ちしつつ電話を取った。『今、どんな状況だ』と小楠が尋ねてくる声が聞こえて、早急に冷静さを張りつかせた。受話器の向こうからは、電車の放送が聞こえてきている。

「先程報告した件ですが、田中と竹内はまだ救急車待ちです。重症を負ったはずのガキは、トラックの下から消えて行方不明のままで、見つかっていません」
『……そうか』

　三鬼は話しながら、すぐに宮橋の姿に視線を戻して、見失うものかと注意深く見つめて歩き出した。含みを感じる小楠の返答については、追及する時間も惜しかったのでそのまま報告を続ける。

「こちらは、今、宮橋と合流したところです」
『分かった。ちょうど近くの駅で降りる予定だ、これから私が行って指揮を執る。だから、お前は宮橋につけ』
「了解」


　三鬼がそう電話でのやりとりを終了させようとしていた時、宮橋は彼の相棒である藤堂に「やぁ」と声をかけていた。

　藤堂は少し驚いたように振り返り、どこかホッとしたような表情を見せた。宮橋は、自分よりもかなり背丈の低いマサルを見下ろすと、何か察した様子で「ふむ」と片眉を引き上げた。しばし考えるように少年を観察し、軽く指を向けて言う。