助けを求めて小さく動いていた彼の手が、ズルリ、と一段下へずれたのだ。

 二人が目を見張ったコンマ二秒半後、唐突に吸い込まれるようにして、ケンの身体は血の上を滑っていた。物凄いスピードで店内に埋まったままトラックの後ろへと引きずりこまれ、破れたガラスの向こう見えなくなる際には、肉体の一部が潰れ裂けるような生々しい鈍い音が上がった。

 その一瞬後、嫌な静寂と共に、トラックの下にはぽっかりとあいた空間だけが残された。一体何が起こったのか状況が飲みこめないまま、三鬼と藤堂は茫然とトラックの向こう側を見やったところで、車体の下に空いた空間越しに田中と目が合った。

 田中は頭に軽いかすり傷を負っていて、うつぶせに倒れた状態で顔だけをこちらに向けていた。頭部から流れた血で片目を瞑っていたが、見開いた右目が「今のはなんだ?」「お前たちも見たか?」と、信じられない様子で尋ねてくる。

 背筋に遅れて走った悪寒で、知らず身体がぶるりと震えた。数秒ほど頭の中は真っ白で、しばし三人は硬直しているしかなかった。