次の瞬間、三鬼は藤堂とほぼ同時に叫んでいた。

「田中逃げろ！」
「田中さんッ、危ない！」

　その腹から発せられた大声に金縛りが解けたかのように、通りにいた人々が一瞬遅れでようやく異常事態を察して反応した。ビルの一階部分にあるその全面ガラス張りが盛り上がる直前、ワッと円を描くような空間を空けて身を翻す中、田中たちがハッと後ろを振り返る。

　一秒一瞬が、やけに長く感じられた。

　彼らの髪とスーツが揺らいで、滑らかに膨れていく一面ガラスの前で、ゆっくりと翻っていくのを三鬼たちは見た。

　次の瞬間、大通りにガラスが破れるけたたましい音が響き渡った。先程まで少年と大人四人が立っていた場所に、巨大な鉄の塊が乗り上げる。それは大型トラックで、道路に縦列していた車に衝突した衝撃で、それらを少し押した位置で止まった。

　響き渡る悲鳴、続く破壊音。――たった数秒で、帰宅ラッシュが続いていた現場はまさにパニック状態と化した。いつの間にか、あの異様な着信音だけが消えていた。