「…………俺たち、この音のあと、松宜が公園に引きずられたのを見たんだ。西盛に電話してた時も、電話の向こうでこの音が聞こえて――」

 不意に、藤堂が何かの異変を察知したように、素早く三鬼の袖を掴んで注意を引いた。繋がったままの携帯電話からは『この着信音、いったい何なんでしょうね』と田中の呟きが上がっている。

「なんだ藤堂、どうした」
「先輩、この音なんですか……?」

 藤堂が、嫌な屋かンが拭えない表情で尋ねる。三鬼は「電話の着信音だろ」と言って、何回も言わせんなと怒鳴り掛けたところで、低い音を耳にして口をつぐんだ。

 通りの人々も、響くコール音の後ろから聞こえる別の音に気づき始めて、誰もが足を止めて耳を済ますような仕草をした。鼓膜が低く叩かれるような振動は、どこからか微かなブレーキ音と共にこだましてくる。それは何かが割れ、くぐもり押し倒されて潰されるような音で――

『何かが近づいてくるような音が』

 電話の向こうで、言い掛けた田中の言葉が途切れた時、三鬼と藤堂は彼らの後ろにある大型衣服店に奇妙な影を見ていた。大通りの沢山の目撃者たちも、一瞬呼吸を止めてそこを凝視して動く事を忘れていた。