カフェから少し手前の横断歩道を渡るため、田中たちの足が一度交差点で止まった。赤信号になって車の流れが途切れると、三鬼と藤堂の位置からもはっきりとケンという少年の姿をとらえる事が出来た。

 事前に顔写真を確認していたケン少年は、赤い短髪にドクロの絵柄がついたプリントTシャツの上から、ジャケットのように学生シャツを着込んでいた。彼は顔を蒼白させて、がたがたと震えている。

 その時、不意にテラスのテーブル席から椅子を蹴り倒す音が上がり、三鬼は藤堂と共に振り返った。そこには立ち上がったマサルがいた。

「し、――死にたくないッ。俺は、死にたくない!」
「落ちつきなさい!」

 捜査員の一人が、今にも飛び出して行きそうなマサルを押さえ込んだ。三鬼は耳に当てていた携帯電話を少し離すと、察した様子で「お前ら、この音を知っているんだな?」と騒音に負けない声で言った。

「一体何に怯えている? 分かるようにハッキリ答えろ!」

 続けざまに怒鳴りつけられたマサルは、捜査員の一人に抱えられた状態で、まるでこの世の終わりだと言わんばかりの顔を上げた。どうにか三鬼を見つめ返して、乾燥した唇をわなわなと動かせる。