「すぐ近くだな。俺たちは今、いつも竹内が入ってるカフェにいる」
『えっ本当ですか? こっちからカフェが確認できますよ! 今、手を振ります。見えますか?』

 うまく音声を拾えないながらも、耳を傾けていた藤堂が「田中さん、なんて言ってるんですか?」と尋ねてきたので、三鬼は「すぐそこにいるんだと」と顎で示して人混みの中に目を凝らした。

 すると、交差点の向こうの広い歩道帯に、スーツの男三人と一緒にいる田中が手を振っている姿が確認出来て、手を上げて合図を送り返した。彼のすぐ傍には、赤い髪をした少年の頭があって、人の群れの間から見え隠れしている。

 田中の後ろから、こちらに気付いた一人の大柄な捜査員が嬉しそうに手を振ってきた。このカフェのケーキと珈琲のセットがお気に入りで、裁縫と料理が得意の竹内である。田中と竹内はパートナーなので、よほどの事情がない限りは一緒に行動している事が多かった。

「おぉ、田中さんと竹内さんがいるッ」

 藤堂は田中たちの姿を見つけると、大きく手を振り返した。後ろの捜査員たちが「おや?」という顔をして同じ方向へと目を向けて、藤堂の甘党食べ歩き仲間の存在に気付いて納得する。

 その時、騒がしい喧騒を切り裂くような着信音が鳴り響いた。