一口、二口と舌の上で煙を転がしていたら、なんとなく気分も落ち着いてきた。説教だなんてやっている時分でもなかったな、と早々に短くなってしまった煙草を、灰皿へと押し潰しながら思う。

 すると、付き合うように隣にいて、ずっと柵に寄りかかって待機していた藤堂が「ねぇ、三鬼先輩」と呼んできた。

「これまでの被害者は、四人とも死んでいるわけですけども、……大丈夫ですかね?」
「そろそろ午後の六時だろ。どれも短時間ごとに殺されているのに、今はまだ誰も死んでねぇ。こんなに人の目もあって、俺らも見張ってんだ。やすやすと犯行は出来ねぇだろ」

 宮橋との電話のやりとりを思い返した三鬼は、下手な言い訳をするかのようなぎこちない口調で言って、通りを流れる大勢の人間と車に視線を逃がした。

 不安そうな表情を浮かべた藤堂が、「でも」と追って言いかけた時、ワイシャツの胸ポケットに入れていた携帯電話から着信音が鳴った。流れ出したトルコ行進曲が、人々の喧騒の間から薄く存在を主張する。