もし『どうやったら、あの犯行が可能なのか』という、今回の事件の最大の問題を省いたとしたら、至極簡単な関係図は浮かぶ。ひどい苛めがあって、金銭まで関わっているのだ。動機は怨恨という説が自然だ。

 けれど、常識を逸脱するような、予測不可能なこの手の事件においては、単純的な犯人と被害者の構図が全く成り立たない事も多々ある。だから三鬼は、余計に苛々した。

 最近でいえば、数ヶ月に及ぶ合同捜査の連続殺人事件があった。どうにか一命を取り留めた被害者だと思われていた男が、最後に自らの手で家族を皆殺しにした。現場に駆け付けた三鬼たちの目の前で彼は、それではまたお会いしましょう、さようなら、と言って日本刀で自身の首を斬り落としたのだ。

 宮橋は、間違った事や意味のない指示は、決して口にしない男だった。捜査経験を経て知っている人間は、だからキーマンがあの少年であるらしいとは頭に入れている。しかし、何が一体どうなっているのか謎だった。