「はぁ、なるほど……?」

 そうなんですか、と真由が続けた時、扉の向こうから「どうぞ」と陽気な声が返ってきた。小楠が静かに頷いて、皮の厚くなった大きな手でドアノブを手前に引いた。

 すると、 部屋の主が、まるで尋ねて来た友人を迎えるような口調でこう言った。

「小楠警部が真っ昼間にここへ来るとは、珍しいじゃないか。差し入れでもあるのかい?」

 室内はこじんまりとしていて、四方の壁には棚が並び、そこには資料やファイルが詰め込まれている。埋もれるようにして、脇には二人掛けのソファと小さなテーブルがあり、扉の正面に窓が一つあって、そこには立派な書斎机が置かれていた。

 内装は少々年代かかって古い印象だが、窓の上にある冷房機のおかげか、見た目ほどの埃臭さはなかった。扉を開けると同時に、紅茶と薔薇の良い香りが真由の鼻をついてもいた。

 扉の正面にある事務机には、多くの本と印刷紙が積み重なっていたが、使用する机上のスペースはきちんと確保されていた。机の中央には美しい造りの西洋カップが受け皿つきで置かれ、この部屋には似つかわしくないアンティークの金細工が入った椅子に、一人の男が優雅に足を組んで座っている。