昇進を断り続けている柏木は、上から声がかかっている現在でも刑事一筋だ。張り込みや突入など、彼は様々な事件の責任者として日々忙しく動いており、かなりの熱血で、時効間近の事件もまだ追っているという噂も聞いていた。

「おいおい、あの人は今、別件に携わっている真っ最中だろ。合同捜査の、連続強姦魔のやつだったか」
『はぁ、小楠警部から直々に頼まれたみたいで……』
「…………まぁ、あの人の勘は警察犬以上だからな……」

 鍛えられた長年の勘というのは、ピンポイントで真実に迫るヒントを見付けたり、犯人に迫りもするものだから恐ろしい。

 三鬼は一年後輩との連絡を終えると、半年前の飲み会以来になる柏木に電話をかけた。コール音が三回鳴り終わらないうちに、通話が始まって『柏木だ』と小楠に負けず腹に響く声が返って聞いていた。

「柏木さん、三鬼です。お疲れ様です。今、マサルという少年を保護していまして、サンサンビル前――西方面のカフェのテラスにいます」
『俺は今、サンサンビルの裏通りの方面だ。与魄智久は、俺の直感だと絶対この辺にいるはずだ、お前も辺りを注意深く見ていてくれ』

 柏木はそれだけ言うと、一方的に電話を切った。

 三鬼はすっかり慣れたそれに、文句も言わず携帯電話を後ろポケットへとしまった。無駄なやりとりをしないところが、彼のかっこいいところの一つだと思っている。強くまっすぐで、彼は昔からの憧れの先輩でもあった。