「小楠警部が当時から率いていた、俺らを含むベテラン組を除いて、な。大抵のメンバーは、あいつという人間と、あいつが絡む事件がどんなものかは、なんとなく理解してる」

 三鬼は通りを眺めながら興味もなさそうな風に言い、タバコの煙を吐き出した。明るさが半トーンほど下がった町中に漂った煙は、生ぬるい町風に吹かれて消えていく。

「一番知っているのは、小楠警部だ。なんなら、あの人に訊け」
「でも三鬼先輩も、宮橋さんとは付き合い長いですよね? うちの部署、異動になったりで人がよく変わるらしいし、先輩の同期で、ウチのフロアに残っているのも宮橋さんだけで、他の先輩方とは話す機会も滅多にないですし」
「全員がこっちに固まっちまったら、いざって時に動きが鈍くなるだろうが。俺らは、個人や一チームだけで仕事しているわけじゃねぇ。組織で動いてんだ。あいつの事を知っている奴らが、他の課にいた方がやりやすいだろ」

 三鬼は言いながら、さり気なく周囲の様子を窺った。仕事は、あくまでも少年の保護だ。しかし、何が起こるか分からないので、用心しなければならないのも事実だった。