「ねぇ、宮橋さん。そういえば物語がどうとかって、こっちに来る前から言っていましたけど、その件も無事に確認出来たんですか?」

 運転する横顔に尋ねてみたら、彼が「まぁね」と素っ気なく言った。ハンドルを握ったまま、チラリとこちらに横目を向けてくる。

「そもそも、君は覚えているのかい?」
「覚えているも何も、全然話も説明もしていないじゃないですか。だから、私はよく分からないですし、この事件とも関係はないと思いますけど、ただ、うーん、なんというか、宮橋さんの中では、大事なキーワードなのかなぁと思って?」

 自分で言っておいて、なんだか分からなくなってきて、真由は彼を真っ直ぐ見つめ返したまま小首を傾げてしまっていた。

 今回の事件にそれほど重要だとは思えないが、既に忘れかけているらしい先程の出来事を思い返そうとした。しかし、どういう話かすっかり忘れてしまっている。まるで、難しくてよく分からない場所だけが空白を作っているみたいだった。