「ああああああのっ、宮橋さん!?」
「橋端真由。僕を見て」
「へ?」
まるで恋人にかけるみたいな色気ある声だ、と思っていたら、彼の拳が差しこまれて驚いて凝視してしまった。それが人差し指、中指、薬指と開いていって、五本指がきっちり五秒をカウントするのを見届けてしまう。
大きな掌の向こうに全ての風景が隠れた。気のせいか、思考がカチリと止まったみたいに頭の中に溢れていた雑念が消えて、抱き寄せられている腰に回った腕の温もりも感じなくなった。
「混乱する情報は、忘れてしまった方がいい」
君は見なかった、君は聞かなかった、と口にした彼の手が再び目の前で拳を作り――真由の視界は、一瞬だけブラックアウトした。
◆◆◆
一瞬、遠く向こうで誰かが、悲しそうな声で何かを呟いた気がする。
「――橋端真由、そんなところでほけっとしていないで歩け。置いて行くぞ」
不意に怪訝な声が聞こえて、真由はハッとした。目を開いた瞬間に、くらりと立ち眩みがして、ほんの数秒ほど意識が途切れていたような錯覚を受けた。
「橋端真由。僕を見て」
「へ?」
まるで恋人にかけるみたいな色気ある声だ、と思っていたら、彼の拳が差しこまれて驚いて凝視してしまった。それが人差し指、中指、薬指と開いていって、五本指がきっちり五秒をカウントするのを見届けてしまう。
大きな掌の向こうに全ての風景が隠れた。気のせいか、思考がカチリと止まったみたいに頭の中に溢れていた雑念が消えて、抱き寄せられている腰に回った腕の温もりも感じなくなった。
「混乱する情報は、忘れてしまった方がいい」
君は見なかった、君は聞かなかった、と口にした彼の手が再び目の前で拳を作り――真由の視界は、一瞬だけブラックアウトした。
◆◆◆
一瞬、遠く向こうで誰かが、悲しそうな声で何かを呟いた気がする。
「――橋端真由、そんなところでほけっとしていないで歩け。置いて行くぞ」
不意に怪訝な声が聞こえて、真由はハッとした。目を開いた瞬間に、くらりと立ち眩みがして、ほんの数秒ほど意識が途切れていたような錯覚を受けた。