不意に、そんな静かな呟きが上がった。口の中で呟かれる言葉はよく聞こえなくて、真由はこちらに横顔を向けている宮橋の方を振り返った。彼はどうしてか、縁側を鋭く睨みつけていた。

「学校から出た時に、身体の方を動かしていたのは『彼本人』か? それとも、一度戻った『アレ』の方なのか。どっちだ……? 聞き分けの悪い子供みたいに五月蠅いやつだ、数十年分の残像が煩くてかなわない、おかげで視え辛――」
「宮橋さん? どうかしたんですか?」

 尋ねると、彼がハッとした様子で口を閉じた。一瞬、咄嗟にこちらへと視線を返してきた鳶色の瞳が、光の反射でも受けていたかのように、一際明るくなって瞳孔を開かせているように見えた。

 二人の視線を受け止めた宮橋が、躊躇うような間を置いて、それからふっと表情を消した。真由は、あ、いつもの彼だ、と思ってそれに違和感を覚えた。なんだか仮面みたいだと思っていると、落ち着いた表情で立ち上がった彼が「最後に一つだけ」とカヨに質問を投げかけた。