「いいえ、ありませんけれど……それは一体なんですか?」
「契約を結ぶ事で、本来なら『こちら側』に出て来られないモノに魂と形を与える事が出来る特殊性について、童話風にまとめられているお話です。簡単に言ってしまうと、願いを叶える代わりに命を取られる、という残酷な童話ですが」
「命を、取られる…………」
「ご存知ないのであれば、それでいいのです」

 考え込みそうなカヨの反応に遅れて気付き、宮橋は視線を一度テーブルへと落としながら、さらりと言った。

「僕が幼い頃に読んだ、多くの中の一つの絵本だったというだけです。ツギハギに縫い合わられた人形が、ぽつんと置かれた絵が表紙にはあって、そこには一枚の鏡も描かれていました。鏡の向こうに映った人形だけが、傷もなく可愛らしい姿で座っている――そんな絵本だった」

 でもコチラ側には、そもそも存在していない一冊だったのだと、彼が悲しげに微笑んで僅かに表情を歪めた。時間を潰すようにぼんやりとソコにいて、勝手にめくられていくページを眺めていたものだった、と……