「僕は、なんて簡単な事に気付かなかったんだろう。性質が逆転するわけでもなくて、『彼ら』は元々二体在るわけだ。『あの本』の絵にあった鏡は、それを示していたのか」

 そう呟いたかと思うと、彼がこちらを向いた。真由が問うように顔を顰めると、宮橋が「カヨさん」と呼ぶ。

「お義兄さんについて、何か知っている事はありませんか? たとえば彼の部屋に、何かの張り合わせがあったりだとかいう、特徴的な物や出来事は?」

 カヨがそっと泣き顔を上げる。ちょっとは空気を読んで配慮してあげたらいいのにと思って、真由はぐっと眉を寄せて尋ねた。

「突然どうしたんですか?」
「一部の血族は、それぞれ『物語』を引き継ぐ。お伽噺や童話と同じで、始めから最後までが書かれていて、それがルールで定められた道筋と条件だ。与魄家にも勿論、血と共に代々それが受け継がれている」

 宮橋は一度話しを切ると、カヨを見据えて「夫か、もしくは一族の誰かから『人形物語』という言葉を聞いた事は?」と尋ねた。