彼女は礼を言って、それを受け取って目元にあてて言葉を続けた。

「夫は、まるで眠っているみたいでしたよ。満足したような顔で微笑んでいて、少し揺すったら起きてくれそうなくらい…………昨日はあんなに元気だったのに、死ぬはずがないって私はみっともなく泣き叫んでしまいました。信じたくなかった。しばらくは、あの人が死んだ事が受け入れられませんでした」

 泣き続けるカヨがいたたまれなくなって、真由は立ち上がって彼女の丸くなった背中をそっと撫でた。九年経ったとしても、大切な人の死は胸を抉るのだと知っていたから、軽い慰めの言葉は掛けられなかった。

 話を聞いた宮橋は、難しい表情を浮かべていた。顎に手を触れて、視線を縁側に向けたまま思案気に口の中に言葉を落とす。

「それが出来るのかと問いかけていたという事は、挑発して、どうにかそれをやれるように誘導したのか? いや、それだと僕が知っているモノとは性質が逆だ。アレは与えられる側であって、奪うモノだ。だから何かを実らせたりは、出来ないはずで…………」

 独り言を続けていた彼は、唐突に顔を上げて「そうか」と言った。