そこで話が途切れた時、宮橋が補足するようにこう言った。

「個人差はありますが、聴覚で聞いているわけではないので、自分が作り出した妄想なのだと気付かないままの人もいます。――きちんと判断出来る人であっても、聞こえ過ぎて時々『どちらに呼ばれたのか』咄嗟に分からなくなる事もある」

 カヨがようやく顔を上げた。独り言のように後半を続けた宮橋が、ふっと視線を返して「すみません、よく分からない事を言って」と静かに見据える。

「あなたの夫の智之さんは、身体に外傷も無く亡くなった、とお聞きしています。彼が亡くなる前に何かが起こり、そして突然亡くなってしまった――そちらの話もして頂きたいのです」

 お聞きした、という部分は、まるで取ってつけたような言い方だと真由は感じた。けれど、調べれば多分分かる事であろうし、きっと自分の気のせいなのだろうと思った。

 どうか話を進めてください、と宮橋に促されたカヨが、戸惑いつつも「九年ほど前の事なのですが」と語り出した。